中に入るとレジュメをくれた。読んでみるとマトモな内容のようだ。ヘンな講演だったら帰るか暴れるかしようと思っていたので良かった。
しばらく待って講演開始。講師は京大 渡邊正己、KEK 宇佐美徳子、東大 三谷啓志、福井大 松本英樹ら (4 人もいるとは)。
最初に軽く渡邊先生。日本放射線影響学会で一般向けにメール (gimon@rri.kyoto-u.ac.jp) での回答や FAQ を作っているとの話。正しい情報を伝えて一般との相互信頼を作っていきたい、というのが目的だとか。
また長野での甲状腺検査の結果について、報道後に担当医の先生と直接話したが「どうしてあんな報道になったのか、本意と違う」ということを聞いた、マスゴミの情報は正確に伝わらないことが多い、ということも言っていた。(マスゴミとしては危険を煽ったほうが売れるからね)
次に 1 時間程宇佐美先生。放射線とは何か、から、半減期、Sv の意味、今回の放射線の影響と駆け足で説明。駆け足でも 1 時間かかった。
放射線によるイオン化の概算の話があり、20mSv/yr の場合で細胞一個あたり数日に一個の放射線が通るぐらいの程度だろう、と言っていた。やはり呼吸による活性酸素の影響のほうがずっと多そうだ。
また、今回 KEK でバキュームした結果からすると、一連のイベントで 11.5μSv ぐらい被曝し、そのうちヨウ素は 5μSv ぐらいだろう、とのことだった。呼気量と実効線量との兼ね合いから一番被曝が多かったのは子供だろうが、それでもその倍程度ぐらいだとか。チェルノブイリ で影響を受けた子供は 1Sv 以上被曝しているらしいので、つくばではその 1/5万 ぐらい、ということになる。
最後は三谷先生。放射線の生物影響が専門とか。放射線の発見から過去の悪影響の事例、放射線はどのような影響があるか、動物実験結果 と話があった。放射線の悪影響についてのステロタイプの例として「映画ではヒーローヒロインが放射線を浴びると数ヶ月後には白血病で亡くなるとか、放射線 を浴びた生物が巨大化するとか」と挙げた時にはちょっと噴いた。(回りはシンとしていた。いや、おもしろかったですよ、先生)
生体影響としては、大線量では幹細胞が死滅して死に至るとか、突然変異するほどの影響があれば生殖細胞が死ぬことになるので稀であるとかいった話、低線量 ではガン死リスクの上昇 (1Sv で 1.5 倍) ぐらいの話だった。日本におけるガンの現状についても話していたが、ガンになるのは男女とも 1/2 ぐらいなのに、ガン死は性差があって男 1/4 に対して女 1/6 だとか。理由はなんだろう。
一番興味深かったのは動物実験の結果か。例えば生殖細胞の突然変異が起る確率が自然状態の倍になるのは、急照射なら 370mSv、緩照射なら 1100mSv (リニアに効く)。また環境科学技術研究所の結果で、 8 週のマウス (大人になったばかりぐらい) を使った照射試験では、寿命に影響が出るのは 20mSv/day から (というか、0,05、1、20 で試験しているようなので、1~20 のどこから影響が出るということだろう。元の論文かせめて abstract を見ようと思ったが、Radiation Research Soc. は購読者にしかオンライン閲覧させない主義らしい。今時検索にかからない論文なんて読んでもらえないぞ?) とか。雌の一部において 1mSv/day でも影響があったこともあるので、まあそのへんから影響が出るのだろう。どちらにしても、低線量被曝の場合、思っていたよりもずっと大きい線量まで影響は ないようだし、さらに言えば人間の遺伝子修復機能はマウスよりずっと性能が良い。
松本先生の講演はなく、質疑へ。以下概略。
- Q. 放射線影響の個体差はどの程度か?
- 三谷 : まだ良くわかっていない
- Q. 放射線も少量なら身体にいい、というのをマスゴミで見たがどうか?
- 三谷 : ホルミシスという。あるかどうかはなんとも言えない。
- 松本 : 適応応答から来た話だろう。急激に 5Sv/秒 ぐらいの放射線を照射するとき、事前に 20mSv/数秒の放射線を浴びせておいた群のほうが生存率が高い。そこから来ているものと思われる。
- Q. 半減期が長いほうが怖いと思っていたが反対なのか?
- 宇佐美 : 単純ではない。同じ Bq であれば同じ放射線が出るが、半減期が短いとそれが急速に小さくなり、長いといつまでも続く。半減期で決まるものでない。
- [感想: これの説明は難しいと思う]
- Q. 一般人が Sv の意味のようなところまで勉強しなくてはならないのか?
- 渡邊 : 放射線は一種類ではなくそれぞれに影響も違う。納得するためにはどのような効果があるか知るべきである。私は 60 歳だが、高校で一通り習った。一から勉強するのは大変だが、質問があれば学会に聞いて欲しい。
- [感想: そういう時代なので、信じるか、勉強するかしかない]
- Q. 何度も講演会があるようだが内容は同じか?
- 市役所 : 同じ。
- [感想: 時々で演者が違うみたいだけど同じなの?]
- Q. 大規模な疫学調査をやって欲しい。線量マップを作ったところは 18 歳以下の甲状腺の調査をやるなどしてもいいのではないか?
- 市役所 : ありがとうございます。
- [感想: つくばあたりで影響が出る可能性は数十万分の1以下だろう。その金でもっと救える人がいる時に、「安心」のために医者の時間と公金を投入することがどこまで許されるものなのか?例えば、もっと人も金も福島に送るべきではないのか]
- Q. 市民の安心のためには知識だけでなく行政がどのように向かいあうつもりかが大切。つくば市の対応は?
- 市役所 : 学校で除染をしている。給食の食材の検査をしていく予定で機器を購入した(後にアロカ CAN-OSP-NAI と判明)。学校の線量地図を作成中である。
- Q. (長々と質問していたが要約すると) 今回の知見を今後に生かすには?
- 渡邊 : 事故は基本的に皆想定外であり、人間は想定外を乗り越えて来た。それを生かすには教育をきちんとして国民のレベルを上げることが重要。また過去を忘れない こと。そうやって次の災害に対応できる人材を作りたい。津波にしても死者のなかった学校もあればそうでない学校もあった。偶然もあると思うが未知のものに どう対応できたかの違いもあるだろう。ここに来ている人は教育関係の人が多いと思うが、教師がリードすべきである。指示待ちでなく、自分で考えて行動できる人材を作るつもりでやって欲しい。
- [感想: 渡邊氏はアラン・ケイと同じことを言うなあ。教育により、科学リテラシーを持ち、科学的に考えられる大人を増やすことが出来れば、こんな講演会も不要になるし、想定外への対応も変わるだろう]
- Q. 今後に生かすには行政の役割も大きいと思うが?[同じ質問者。回答聞いてたか?]
- 市役所 : 今回の事故を検証しているところだ。今後に生かされるだろう。
全体として、良い講演会だったと思う。